神戸家庭裁判所 平成元年(家)1014号 審判 1989年11月14日
申立人 吉田京子
相手方 鳥井和正
未成年者 鳥井潤子
主文
相手方は申立人に対し、金44万2013円を支払え。
相手方は申立人に対し、平成元年11月以降未成年者が高等学校を卒業するまで毎月末日限り金4万円を支払え。
理由
一 申立て
相手方は申立人に対し未成年者の養育費として、昭和63年8月より平成元年3月まで(未成年者が中学生の間)は毎月3万円を、同年4月より未成年者が高等学校卒業に至るまでは毎月4万円を支払え。
相手方は申立人に対し、未成年者の高等学校入学に際し要した費用の内金25万円を支払え。
二 当裁判所の判断
A 養育費支払い請求について
1 当裁判所調査官○○、同調査官補○○作成、及び上記○○作成の平成元年9月27日付、同年10月31日付各調査報告書、並びに申立人及び相手方に対する各審問の結果によれば、次の事実が認められる。
(一) 申立人と相手方は昭和45年3月11日結婚し、同年12月10日長女裕子及び二女智子(双子)を、昭和48年9月1日三女である本件未成年者を、昭和50年4月5日四女良子をもうけたが、次第に不仲になり、昭和57年5月22日上記4人の子の親権者をいずれも父である相手方と定めて協議離婚した。
(二) 離婚後、上記4人の子は相手方によって監護養育されていたが、昭和63年7月26日本件未成年者は母である申立人と暮らしたいとの気持から申立人方に移り住み、以後申立人がその監護養育に当たり、現在に至っている。この間、同年10月13日申立人と相手方との間において未成年者の親権者を相手方から申立人に変更する旨の調停が成立した(当裁判所昭和63年(家イ)第806号親権者変更調停事件)。
(三) 申立人は現在、離婚後他の男性との間にもうけた非嫡出子(昭和57年9月29日生、女)、及び未成年者と3人で肩書住所地で暮らし、会社事務員として稼働して月平均11万7176円(円以下四捨五入、以下同じ)の給与(以下、金額は特に表示がない限り月額である)を得ているほか、上記2名の未成年者の児童扶養手当2万7750円(2人分)の支給をうけている(なお、上記児童扶養手当の額は例年増額改定されており、平成元年においても4月に遡って2万8500円に増額されることは確実であるので、以下の計算においては平成元年3月分までは2万7750円、同年4月以降は2万8500円として算定する)。申立人は家賃として、申立人において未成年者の監護養育を開始した昭和63年7月26日より平成元年3月までは3万3000円、同年4月以降は2万8000円を支払っている。申立人は、県、市民税を免除され、各種社会保険も控除されていないので、上記給与から職業費10%と上記家賃を控除し、これに上記児童扶養手当を加算すると、申立人の可処分所得は下記のとおりとなる
昭和63年8月より平成元年3月まで
117,176-(117,176×0.1)-33,000+27,750 = 100,208
平成元年4月以降
117,176-(117,176×0.1)-28,000+28,500 = 105,958
(四) 相手方は、未成年者が相手方のもとから申立人のもとに移り住んだ当時は、申立人との間の2人の子(長女、四女。二女は以前より大阪に別居、就職)及び再婚した妻と4人で暮らしていたが、長女が平成元年8月23日自衛隊に就職し、別居するに至ったため、現在は3人家族である。相手方は現在○○鉄工株式会社を経営し、40万円の給与を得、これより所得税5,292円、社会保険料4万2,435円、県、市民税4,350円のほか、住宅ローン返済金6万9,923円を支払っている。相手方の職業費として20%を控除すると、相手方の可処分所得は下記のとおりとなる(なお、相手方の妻は上記○○鉄工株式会社にパートタイマーとして稼働し、5万円の収入を得ているところ、相手方の妻には未成年者の扶養義務はないので、相手方の本件養育費分担義務の有無、及びその額の算定に当って上記5万円をその算定の基礎とすることは、相手方の妻において本件養育費の一部を負担する結果となって、相当でないとも考えられる。しかし、相手方の妻の収入が同人の生活費を上回る場合はともかく、一般の標準生計費(1人当り8万4,641円)等からみると、相手方妻の収入はその生活費を下回るので、上記5万円を相手方の可処分所得と合算し、その合計額において相手方妻の生活費、及び未成年者の養育費を考慮したとしてもさ程不合理はないと思われるので、下記のとおり算定する)。
400,000-5,292-42,435-4,350 = 347,923
347,923-(347,923×0.2)-69,923+50,000 = 258,415
2 以上認定の事実からすれば,相手方は申立人に対し未成年者の養育費を支払う義務があるところ、一般に、父母はその未成熟子に対し自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持の義務を負うが、父母の離婚後はその子がいずれに養育されている場合であっても、生活水準の高い親と同程度の生活が保障されるべきである。そこで先ず、未成年者が申立人または相手方と共同生活した場合に未成年者のために費消されるべき費用を、労研方式によって算出する。消費単位は、申立人95、未成年者90(但し、平成元年4月高等学校入学以前は80)、申立人の子55、相手方115、相手方の妻90、長女90、四女80である。
(1) 未成年者が申立人の前記可処分所得により申立人と生活する場合
昭和63年8月より平成元年3月まで
100,208×(80/(95+80+55)) = 34,855
平成元年4月以降
105,958×(90/(95+90+55)) = 39,734
(2) 未成年者が相手方の前記可処分所得により相手方と生活する場合昭和63年8月より平成元年3月まで
258,415×(80/(115+90+90+80+80)) = 45,436
平成元年4月より同年8月まで
258,415(×90/(115+90+90+80+90)) = 50,016
平成元年9月以降
258,415×(90/(115+90+80+90)) = 62,020
とすると、未成年者の養育に要すべき費用は、より高額の後者によるべく(後者の金額は、前記標準生計費及び未成年者の年齢に照らし、相当な額といえる)、これを申立人と相手方双方がそれぞれ自己の可処分所得に応じて分担すべきである。よって相手方の分担額は下記のとおりとなる。
昭和63年8月より平成元年3月まで
45,436×(258,415/(100,208+258,415)) = 32,740
平成元年4月より同年8月まで
50,016×(258,415/(105,958+258,415)) = 35,472
平成元年9月以降
62,020×(258,415/(105,958+258,415)) = 43,985
以上により、相手方は申立人に対し、未成年者の養育費として、昭和63年11月12日(養育費支払いの始期は本件調停申立ての日の翌日とするのが相当である)より平成元年3月までは申立ての範囲内で月額3万円、同年4月より同年8月までは月額3万5000円、同年9月、10月は申立ての範囲内で月額4万円、以上合計39万4000円を即時に、同年11月以降未成年者が高等学校卒業に至るまで毎月末日限り4万円を支払うべきである。
B 高等学校入学費用請求について
前掲各証拠によれば、未成年者は平成元年4月私立○○女学院高等学校に入学したが、その費用として、受験料1万3000円、入学金20万円、設備協力金15万円、教科書、物品代約9万8980円、合計46万1980円を要し、これを申立人において支払ったことが認められる。申立人は本件においてそのうち25万円の支払いを相手方に請求し、相手方においては「自分としては未成年者を費用のかからない公立高校に進学させるつもりであったのに、申立人の見栄から相手方に無断で私立高校に進学させた」と主張して、その費用の支払いに応じようとしない(これに対し、申立人は「未成年者は能力的に私立高校にしか入学できなかった」という)。
ところで、一般に親は未成年の子を監護、教育する義務を有する(民法820条)が、この義務は親の子に対する私法上の義務というよりはむしろ国家ないし社会に対する義務と解すべきであり、従って子は親に対し教育を受けさせること、或いはその方法等につき特定の請求をする法律上の権利はこれを有しないと解するのが相当である(親権者が未成年者に対し適切な教育を怠った場合には、事情によって親権喪失の原因となるだけである)。従って、本件のように父母が離婚している場合に、親権者である母が未成年者に高等学校、或いは大学等義務教育を越える教育をうけさせることを、費用負担者である父親に相談することなく一方的に決め、その費用を父親に請求することは当然には認められず、ただ、父親の資力、社会的地位等からみて、父親において未成年者のため義務教育を越える教育費を負担することが相当と認められる場合においてのみ、親権者である母はその費用を父親に対し請求し得るというべきである。
これを本件についてみるに、未成年者が私立高校に進学するにつき相手方の同意を得ていなかったとはいえ、未成年者が公立高校に進学することは相手方においてもこれを認めていたのであるから、相手方は未成年者の高等学校入学に要した費用の1部を負担する義務があるというべきである。そして、その負担額は、長女、二女ともに公立高等学校を卒業していること、前記認定の相手方の収入からみて、未成年者を私立高校に進学させることは、相手方にとって可成りの負担となること、申立人は、相手方が当初から未成年者を私立高校ではなく公立高校に進学させることを強く主張していたにもかかわらず、相手方の意向を無視して私立高校に進学させたこと等を考慮すると、相手方に対し、未成年者が公立高校に進学しておれば支出したであろう入学費用の額を基準にし、これを前記認定の申立人と相手方の各可処分所得割合によって算定した額を負担させるのが相当である。そして、平成元年度における公立高校の入学に要する費用は合計6万7700円(検定料1,7000円、入学金4,000円、教科書、制服代6万2000円)であるので、これを基礎に相手方の分担額を計算すると、下記のとおりとなる。
67,700×(258,415/105,958+258,415) = 48,013
以上により、相手方は申立人に対し、未成年者の高等学校入学費用として、4万8013円を即時に支払うべきである。
よって、主文のとおり審判する。
(家事審判官 高橋水枝)